Photo: Protest in Bonn, West Germany against the nuclear arms race between the U.S./NATO and the then Soviet Union. Wikimedia Commons.
【ベルリン/プラハIDN=ラメシュ・ジャウラ】

核軍拡競争の停止を求める高い呼び声

1946年1月24日、国連総会はその決議第1号を全会一致で採択した。「原子兵器と、大量破壊に適用しうるその他すべての主要な兵器を各国の兵器庫から一掃する」ための委員会を国連安保理に創設するためのものであった。同決議は「原子力の発見によって提起された問題に対処するための委員会」と題されていた。

世界中の組織や著名人からなるグローバルなネットワークが、核軍縮が国連の主要目標であると確認したこの総会決議を想起して、核先制不使用や、核戦争を戦わずに済むその他の政策を採択するよう核保有国に求める公開書簡を発表した。

これまでのところ、書簡には69カ国の1000人以上が署名している。1月24日付の同書簡は、「核五大国」の指導者と、核兵器不拡散条約(NPT)に加入しているその他185カ国の政府に対して出されたものだ。「核五大国」とは中国・フランス・ロシア・英国・米国であり、国連安全保障理事会の常任理事国でもあることから「P5」とも呼ばれている。

「NPTを実現せよ「核の脅威から人間の安全保障へ」と題されたこの公開書簡は、世界各地の団体、学者、政策決定者、市民活動家などによるグローバルなネットワークである「NoFirstUse Global」によって出されたものである[訳注:「No First Use」とは「核先制不使用」を意味する]。

世界各地から、元政府閣僚、大使、議員、2人の国連総会議長経験者、元軍人、ノーベル賞受賞者、科学者、宗教指導者、企業経営者、市民活動家が書簡に名前を連ねた。

公開書簡は、核兵器生産を停止することによって核軍拡競争を終わらせ、核先制不使用から始めて安全保障政策における核兵器の役割を低減し、NPTの75周年にあたる2045年までにすべての核兵器を全廃するよう公約し、予算と公的資金を核兵器産業から医療や気候変動関連、持続可能な開発へと移すように、核保有国に求めている。

NPTの締約国に対しては、核戦争を予防し、核兵器なき世界を達成するために誠実に取り組む法的・道義的義務があること、そして、今その機会が訪れていることを強調した。

「先制使用オプションは、文字通り、非常に燃えやすい状況の中で火を弄ぶようなものであり、過失や計算違いによって始まる核戦争を導く危険性がこれまでにもあった。」

「単独での先制不使用宣言や二国間の先制不使用協定、あるいは多国間の先制不使用協定によって、これらの危険を減じることができる。これに続いて、先制不使用政策を実施するために核戦力や作戦管制を再構成し、核の危険をさらに減ずるために政策への信頼性と信用を構築することができよう。そして、最も重要なことは、先制不使用(あるいは「唯一の目的」方針)の採択によって、核保有国やその同盟国が核兵器の完全廃絶に向けた協議に参加できるようになるという点である。」

公開書簡は、核兵器を高度の警戒態勢下においた核保有国同士の緊張の高まりや、P5のすべてが核戦力を近代化している新たな核軍拡競争に駆り立てられて出されたものだ。こうした現状は、故意(意図的なエスカレーション)によるものであれ、あるいは計算違いや情報の誤り、未承認の使用、システムの不備(事故的な使用)によるものであれ、核戦争勃発のリスクを高めている。

こうした現状の下、米国の団体が1月12日に出した共同声明は、ICBMの廃絶を次のように呼びかけた。「大陸間弾道ミサイルは特に危険であり、誤報や計算違いによって核戦争が起きる可能性を著しく増大させてしまうものだ。ICBMの全廃以上に、世界的な核のホロコーストの可能性を減じるために米国が取れる重要な措置はない。」

声明は次のようなウィリアム・ペリー元国防長官の言葉を引いている。「もし我々のセンサーが敵のミサイルが米国に向かっていると示したならば、大統領は、敵のミサイルが我が方のICBMを破壊してしまう前にその発射の決断を下さねばならない。ひとたび発射されたなら、取り消しは不可能だ。大統領には、この恐るべき決断を下すまでに30分も与えられていない。」

ペリー元国防長官は、さらにこう書いている。「米国はまずもって、冷戦期の核政策の主要素であった大陸間弾道ミサイル(ICBM)戦力から安全に撤退することができる。ICBMを退役させることで相当のコストは浮くが、利益があるのは予算面だけではない。これらのミサイルは世界でもっとも危険なものの一つだ。事故的な核戦争を引き起こしかねない。」

さらに、『原子科学者会報』は、「世界終末時計」を3年連続で「真夜中まで100秒前」にセットしたと発表した。これは史上最も真夜中に近く、今日の核戦力と核政策のリスクのレベルが引き続ききわめて高いことを示している。

先の公開書簡の署名者らは、P5が2022年のNPT再検討会議(新型コロナのために8月まで延期)の準備の一環として1月3日に出した共同声明について触れた。声明でP5は「核戦争に勝者はなく、戦われてはならない」と述べたが、同時に安全保障政策における核兵器の役割を再確認してもいた。

公開書簡の著名な署名者たちは、核兵器の現状についてこのようにコメントしている。

マリア・フェルナンダ・エスピノーサ(エクアドル元外相、第73回国連総会議長)「核兵器は現在および将来の世代に脅威を与える。それは、国家間の紛争解決の役に立たず、コロナ禍や気候変動、食料安全保障、サイバーセキュリティ、持続可能な開発目標の達成など、今日および将来の人間の安全保障の問題にとって逆効果ですらある。NPTの実現、核兵器を世界的に廃絶するという1946年に国連が打ち立てた目標の実現を図るべき時だ。」

トマース・グラハム・ジュニア大使(グローバル・セキュリティ研究所無党派安全保障グループ議長、1995年NPT再検討・延長会議での米代表)「イラン情勢や北朝鮮問題、急速に悪化する気候変動、その他の重大な問題によって、10~15年前よりも核戦争の可能性は高まっている。」「これに対処する意義のある方法は、米国が核兵器を先制使用しないと宣言し、その他の核保有国にもその方針に賛同するよう要請することである。」

デイビッド・ハネイ卿(グローバル安全保障と不拡散に関する英国超党派議員の会共同代表、元英国国連大使、元英国欧州連合大使)「国連安保理事会の常任理事国は、核先制不使用や『唯一の目的』概念も含め、核戦争のリスクを減じる方法について真剣な協議を始めるべき時だ。『核戦争に勝者はおらず、戦われてはならない』とするレーガンとゴルバチョフの見解をこれらの国々が再確認してからまだ数日しか経っていないのだ。」

ギャレス・エバンス(アジア太平洋リーダーシップネットワーク創設者、元豪州外相)「先制不使用を採用するかどうかはリトマス試験のようなものだ。『核戦争に勝者はおらず、戦われてはならない』とする宣明は、それ自体待ち望まれていたし、歓迎すべきことでもあるが、核先制不使用なしには空疎なレトリックにすぎない。」

ジョルジオ・パリシ(2021年のノーベル物理学賞受賞者)「非核兵器国は核不拡散条約を尊重してきたが、核兵器国はその義務を尊重してきていない。非核兵器国の市民として、核兵器を世界的に廃絶する協議に参加することを核保有国が拒んでいることに、私は腹立たしく思っている。」

フランク・フォンヒッペル(プリンストン大学公共国際問題学教授、元米大統領府国家安全保障問題顧問補佐)「現代社会の多くの相互的な脆弱性を我々が理解するところでは、全面戦争に対するあらたな抑止力が登場しているということだ。この理解を基盤にすれば、核軍縮に向けた第一歩としてまずは核先制不使用を約束するのが当然ということになるのではないか。」

公開書簡に賛同した軍の元司令官や退役軍人らは、核兵器の先制使用の可能性を残した現在の政策は核の大惨事のリスクを増大させるものであり、司令官らは、とりわけ核兵器を発射するよう命令された場合に困難な立場に追いやられると考えている。

例えば、英海軍のロバート・フォーサイス元中佐はこう述べる。「巡航している戦略潜水艦の司令官には、なぜ核を発射するのか、標的は何か、発射の結果として民間人はどうなるのかといったことを知るすべがない。だから私は1970年代、私の艦からポラリスミサイルで先制攻撃するつもりはなかったし、どのような場合でも核による先制使用には強く反対してきた。」

「戦争は我々が21世紀に直面している問題への答えではない」と語るのは、間もなく任期が満了する「平和を求める退役軍人の会」のアドリアネ・キン代表である。「既に人間や環境に恐ろしい影響を与え、将来の世代にも影響を与え続けるであろう核兵器と機器に関してもそのことが言える。我々のお金や資源、知性を、今日の世界のニーズを満たす解決策を見つけるために使うべきだ。」

公開書簡の署名者らはまた、先制不使用政策の採択によって核軍備管理・核軍縮協議の現在の行き詰まりが打開され、核兵器なき世界に向けての扉が開かれると主張した。

例えば、ロシア軍事科学自然科学アカデミーの会員であるウラジミール・P・コジンはこう述べる。「核兵器国はミサイルや爆弾の正確性を向上させ、核・非核両用の航空運搬手段を拡散し、国境の外側に前進配備される新型核兵器へと移行している。」

「これらが合わさって、それぞれの国家の核戦略において戦略核・戦術核を使用することがますます正当化されるようになっている。これは劇的かつ危険な展開であり、戦術核や運搬システムを縮小したりその使用を禁じたりするための公的交渉を核兵器国が行っていないという事実が事態を悪化させている。」

「他方で、核兵器の先制不使用という方針をすべての核保有国が採用するならば、核兵器の役割がまずは小さくなり、最終的には、この地球のすべての住民と国際安全保障全体の利益のために、地球上からそのような大量破壊兵器が廃絶されるという、画期的な展開がもたらされることになるかもしれない。」

核保有国が先制不使用政策を採択することの政治的・軍事的実現可能性や望ましさについては、『核兵器の先制不使用:一国的・二国間・多国間アプローチとそれが安全保障、リスク低減、軍縮に与える影響』と題する作業文書で論じられており、この文書は公開書簡とともにNPT加盟国に送付された。(1.26.2022) INPS Japan/ IDN-InDepth News