Nayarit Conference in Mexico/ICAN

いまだ幻想にとどまる中東非核兵器地帯化構想

【国連IDN=タリフ・ディーン】

政治的にも軍事的にも不安定な中東に非核兵器地帯(NWFZ)を設けるという長年の提案が、1960年代から国連の廊下や委員会の部屋で議論されてきた。

1974年にエジプトとイランが行った共同宣言は国連総会決議につながった。しかし、それが政治的現実の領域に達したことはない。

ニューヨークの国連本部で11月14日から18日にかけて開催された第3回「中東非核兵器地帯創設に関する国際会議」に出席したアントニオ・グテーレス国連事務総長は、会議が「成功裏に終了したこと」を歓迎し、提案の明るい面に着目した。

グテーレス事務総長は、レバノンを議長国とするこの会議に参加した国々に対して、「将来的な条約確立に向けた建設的な関与」を歓迎した。

会期間にも作業を継続することを会議参加者らに求め、「核兵器やその他の大量破壊兵器がない地帯を中東に創設することをオープンかつ包摂的な形で追求する努力」を支援すると語った。

現在、5つの国連安保理常任理事国である米国・英国・フランス・中国・ロシアに加え、インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮という9つの核兵器国が存在する。

イスラエルは中東における唯一の核保有国であり、それにイランが続いている。サウジアラビアとエジプトも核保有への関心を度々示している。

『パレスチナ・クロニクル』の編集者で作家のラムジー・バロウド博士は「核兵器のない中東地域を確立するための国連のいかなるイニシアチブも歓迎するが、歴史が教えてくれるのは、そうしたジェスチャーはせいぜい象徴的なものでしかないということだ。」とIDNの取材に対して語った。

「さらに悪いことに、米国を中心とした国際社会は核不拡散の問題を政治的に扱ってきた。たとえばイランのような国々は、核能力の開発を目指そうとしているだけであらかじめ制裁の対象になるのに対して、イスラエルのように90発から140発ほどの核兵器を保有しているとみられる国には何のお咎めもない。」とバロウド博士は指摘した。

10月31日の国連総会では、イスラエルに核兵器の放棄と核施設を国際原子力機関(IAEA)の監視下に置くことを求める決議案が採択されたが、イスラエル自身も含めわずか5カ国だけの反対があった中に米国とカナダの姿もあった。

「残念ながら、米国や西側の国々がイスラエルを支持している限り、中東非核兵器地帯はすぐには実現しないことは分かっている。」

「だから、この地域に非核兵器地帯を求めることは、米国がイスラエルの敵とみなされる国々の核開発を抑制することにしか関心がないことを考えると、空虚な呼びかけにすぎない。これでは、大量破壊兵器に関する倫理的な話し合いの出発点にはなり得ないし、成功するはずもない。」とバロウズ博士は断言した。

ニューヨーク大学グローバル問題センター国際関係学の元教授であるアロン・ベン=ミーア博士は、中東に非核兵器地帯を設立しようとの国連総会の取り組みは、いくつかの理由により何度も失敗に終わっていると指摘した。

そもそも、中東で唯一核兵器を保有するとされながら、核拡散防止条約(NPT)に加盟していないイスラエルに常に焦点が当たってきた。

20年以上にわたり、国際交渉と中東研究の講座を担当しているベン=ミーア博士は、「イスラエルの視点からは、ミハエル・マーヤン国連副大使が言ったように、NPTは遵守の度合いによってのみ意味を持ち、中東の「固有の安全保障上の課題」に対する解決策を提供するものではない。」と語った。

イスラエルが主張するこれらの「固有の安全保障上の課題とは、第一に、イスラエルが中東の大部分の国家から承認されておらず、そのうちいくつかの国家がイスラエルを敵と宣言していることにある。」とベン=ミーア博士は指摘した。

第二に、皮肉にも、NPT加盟国であるイランが核兵器を追求し高濃縮ウランを大量に保有しているという点だ。イスラエルの観点からすれば、イランは自国の生存を脅かす脅威なのである。また、シリアでも未申告の核活動が残っており、イスラエルにとって重大な懸念となっている。

最後に、ユダヤ人の歴史的経験とイスラエルの現代的安全保障の観点から、イスラエルの国家安全保障を巡るイスラエルの懸念は特に重要である。

「イスラエルが核兵器を保有していることは公然の秘密化しているが、中東の他の国々が核保有することを抑止するために、核保有を否定も肯定もしない『あいまい政策』を採り続けている。」とベン=ミーア博士は語った。

「イスラエルはNPTに加入することを拒み続け、国連総会が要求するように、すべての核兵器を放棄したり国際原子力機関の監視下に核施設を置いたりすることを拒み続けている。」                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「従って、こうした状況が続き、イスラエルとイランを含む地域のすべての国との間で包括的な和平合意が成立しない限り、核兵器やその他の大量破壊兵器のない地帯を中東に創設するというのは幻想にしか過ぎないだろう。」と、ベン=ミーア博士は主張した。

中東の非核化を加速させる上で、もう一つ極めて重要な動きは、米国がこの地域の友好国・同盟国に核の傘を提供するという条約上の保証を与えることだ。

「こうした措置によって、イランなどの国々が核兵器取得を目指すという危険な道を回避することができる可能性がある。」と、ベン=ミーア博士は付け加えた。

国連によると、現在、南半球の大部分と中央アジアに5つの非核兵器地帯(NWFZ)が存在する。また、南極大陸とモンゴルも特別の非核地位を有している。

「非核兵器地帯は、世界の核不拡散・軍縮の規範を強化し、平和と安全に向けた国際的な努力を強化するための重要な地域的アプローチである。」

非核兵器地帯のそれぞれの領域では、核兵器の取得・保有・配備・実験・使用が禁止されている。

さらに、これら非核兵器地帯条約の締約国は、核保有国がこれら非核地帯を構成する国々に対して核兵器を使用したり使用の威嚇を行ったりすることを予防する法的拘束力のある協定を正式に締結するための努力を続けている。

グテーレス事務総長が「軍縮アジェンダ」で述べているように、「非核兵器地帯は、核兵器のない世界に向かう地域的取り組みと世界的取り組みとの相乗効果を示す優れた例となる『画期的な手段』である。」

国連は「非核兵器地帯はそれ自体が目的であると考えるべきではないが、これらの地域協定はそれぞれがより平和で安定した世界を実現するための集団的な取り組みに大きな価値を与えることになるだろう。」としている。(11.23.2022) INPS Japan/ IDN-InDepthNews