Nuclear weapons sent by Russia to Belarus will target Europe. Source: YouTube Kanal 13 Global
Nuclear weapons sent by Russia to Belarus will target Europe. Source: YouTube Kanal 13 Global

ベラルーシの戦術核兵器は「憂慮すべき事態」

【国連IDN=タリフ・ディーン】

ベラルーシへの戦術核兵器の第一弾の搬入を先月済ませたとロシアのウラジーミル・プーチン大統領が主張したことで、その意味合いと結末についてさまざまな憶測が拡がっている。しかし、この主張はどれだけ信憑性のあるものだろうか。それともプーチン大統領がまたぞろ核の恫喝に訴えたものだろうか。

ソ連が崩壊した1991年以降、ベラルーシには81発の単弾頭核ミサイルが配備されていた時期があった。92年5月、ベラルーシは核拡散防止条約(NPT)に加盟し、96年までにすべての核兵器をロシアに引き渡した。

「核政策法律家委員会」の会長で、国際反核法律家協会(IALANA)国連事務所長でもあるアリアナ・N・スミス氏は、IDNの取材に対して、「ロシアがベラルーシに戦術核兵器を配備したことは、ロシアによるウクライナへの侵略戦争が進行している中で、憂慮すべき事態だ。」と語った。

スミス氏は、「核共有協定は、通常、核兵器国の兵器を非核兵器国に配備し、戦時において非核兵器国がこれらの兵器を運搬・使用する手順を含むものであり、核不拡散条約(NPT)とは相容れない。今回のロシア・ベラルーシ間の取決めは、核のリスクを伴いつつすでに暴力的かつ違法な戦争をさらにエスカレートさせるもので、世界を危機に陥れかねない。」と指摘した。

ロシアもベラルーシも、それぞれ核兵器国、非核兵器国としてNPTに加盟しており、その条項に拘束されている。

条約第1条は、NPT上の核兵器国に対して「核兵器その他の核爆発装置又はその管理をいかなる者に対しても直接又は間接に移譲しないこと。」さらに、「核兵器その他の核爆発装置の製造若しくはその他の方法による取得又は核兵器その他の核爆発装置の管理の取得につきいかなる非核兵器国に対しても何ら援助、奨励又は勧誘を行わないこと。」を義務づけている。

第2条は同じような義務を非核兵器国にも課し、核兵器の移転や支援を受けることを禁止している。

スミス氏は、「したがって、ロシアがベラルーシに核兵器を配備しベラルーシがそれを容認していることは国際法違反だ。今回の配備はすでに弱体化している世界の軍備管理に対する受け入れがたい脅威であり、紛争で核兵器が使用される可能性を高めるものだ。」と指摘したうえで、「ロシアと米国・北大西洋条約機構(NATO)は、いずれも自らの立場を正当化するために『抑止』に訴え、大量破壊兵器の使用をそれによって予防しうるという誤った主張をしている。」と語った。

例えば、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、ベラルーシ領内にあるロシアの戦術核兵器を「潜在的な侵略者に対する抑止力」として明確に言及し、この文脈でロシアが使ってきたのと同様の言葉を使った。

核不拡散軍縮議員連盟(PNND)の共同創設者で国際コーディネーターでもあるアラン・ウェア氏は、「ロシアによるウクライナ侵攻開始以来、プーチン大統領は、不法なウクライナ侵攻とウクライナ領の併合を欧米諸国に受け入れさせるために様々な形で核の恫喝に訴えてきた。」と語った。

しかし今までのところプーチン大統領のこの試みは成功していない。ウェア氏は、「西側諸国は強硬な姿勢を保ち、ロシアの侵攻とウクライナにおけるロシアの戦争犯罪に対し一致して事に当たっている。プーチン大統領がベラルーシに核兵器を配備したところで、西側によるウクライナ支援を止めることはできないだろう。」と語った。

「プーチンの行動は威圧的であり、戦争で実際に核兵器を使用することは想定していないように思われるが、さらなる紛争の激化、思い違いや誤解、偶発的事故を通じて核兵器が使用されるリスクを高めてしまうことになる。」とウェア氏は警告した。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は2022年8月、「これまで私たちが非常に幸運だっただけのことだ。しかし、運は戦略でもなければ、地政学的緊張が核紛争に波及することへの防護にもならない。」と指摘したうえで、「今日、人類はたったひとつの誤解、あるいはたったひとつの誤算で、核による滅亡に直面する瀬戸際にいます。」と語った。

6月16日付の『ヒル』紙の記事によると、米国のアントニー・ブリンケン国務長官は、ベラルーシに戦術核を配備したとのロシアの主張をバイデン政権は子細に検討しているが、米国の核態勢を「それに合わせる理由はない」と述べた。

ブリンケン発言は、ロシアがベラルーシへの核兵器の第一弾移送を終え残りは夏までに完了するとしたプーチン大統領の声明を受けたものだ。

3月にウクライナと国境を接する国(=ベラルーシ)に核兵器を配備する計画を初めて発表したプーチン大統領は、この動きは「抑止力」としての意味合いがあると述べていた。

プーチン大統領は6月17日、サンクトペテルブルクで開かれた「国際経済フォーラム」で演説を行った後、移送は「封じ込め」のためであり、「私たちを戦略的に敗北させようとする人々に対して」のメッセージであると話したことをBBCが報じている。

プーチン大統領は、核兵器の使用可能性について問われると、「なぜ世界全体を恫喝する必要があるだろうか。 ロシア国家の存立が脅かされた場合には極端な措置を取ることもありうると、これまでも明言してきた。」と語った。

戦術核兵器は、戦場での使用や限定的な攻撃を目的とした小型の核弾頭と運搬システムである。広範囲に放射性降下物を撒き散らすことなく、特定の地域の敵目標を破壊するように設計されている。

最小規模の戦術核兵器は1キロトン以下(トリニトロトルエン爆弾相当量)であり、最大は100トン程度である。BBCによれば、これと比較すると1945年の広島型原爆は15キロトンであるという。

ウェア氏は、2022年11月のG20バリサミットで「核戦争に勝者はおらず、戦われてはならない」との意見で一致したことを指摘した。(記事「G20サミットでの突破:核兵器国・同盟国が核兵器の使用及び使用の威嚇は容認できないことを確認」)

「しかし、この合意は不安定なものだ。広島G7サミットでの首脳らの態度はバリ宣言よりも後退したものだった。」(記事「広島G7サミット、核兵器をめぐる規範で後退」)

核兵器の使用やその威嚇に反対する規範を強化し、承認された国際法にそれを転換していくことの重要性がここには現れている。「核先制不使用グローバル」は、「規範から法へ:公的良心の宣言」でこのことを展開している。この宣言は4月に発表され、5月の広島G7サミットにも提出された。

また、7月31日から8月11日までウィーンで開催される核不拡散条約(NPT)第11回再検討会議に向けた第1準備委員会、9月にインド開催されるG20会合、10月の国連総会にも提示される予定だ。「公的良心の宣言」はアーロン・トビッシュ氏が起草したもので、8月のNPT準備会合ではジョン・ハラム氏が発表することになっている。

アリアナ・スミス氏はさらに説明して、グラハム、ブルーメンタール両米上院議員が最近、ロシアによるウクライナでの核兵器使用はNATOへの攻撃とみなすべきであるとの決議案を提出したと述べた。ロシアが核兵器を使用するか、あるいはザポリージャ原発で事故を起こした場合には、それが米国との戦争につながることを警告し、ロシア軍の「完全壊滅」を示唆したものだ。

「抑止力という言葉とそれに伴う行動は、私たちの生存を脅かすチキンゲームに等しい。これらすべてが、意図的な核攻撃だけでなく、誤算や誤った解釈による核兵器使用のリスクを高めている。」とスミス氏は指摘した。

ロシアによる今回のベラルーシとの防衛取決めは、米国がNATO諸国と行っている核共有の前例を念頭に置いたものだ。

「米国がNATO諸国と行っている核共有はNPT発効以前のものだが、米・NATOの核共有、ロシア・ベラルーシの核共有のいずれもが、核拡散につながりかねず、可能な限り早急に廃止されるべきだ。」と、スミス氏は主張した。

他方で、欧州安全協力機構(OSCE)は、7月4日にバンクーバーで開いた会合で、核リスク低減と核軍縮に関する次のような文章を「バンクーバー宣言」に盛り込んだ。

「OSCE(欧州安全保障協力機構)議員会合は、ロシアによるウクライナへの戦争によって煽られている核脅威エスカレーションを直ちに終わらせるよう求め、全ての参加国に対し、時間的枠組み内での核廃絶を達成するための国際的な取り組みを倍増させるよう奨励した。これには、包括的な核兵器禁止条約または協定の交渉(8回目のNPT再検討会議の最終文書で推奨されているもの)や、2017年の核兵器禁止条約の署名と批准が含まれる。」

この会議には、PNNDのメンバーも含め、北米・欧州・中央アジアから200人以上の議員が参加した。(07.05.2023) INPS Japan/ IDN-InDepthNews