The first session of the Preparatory Committee for the 2026 Review Conference of the Parties to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons (NPT), which met from 31 July–11 August 2023 at the Vienna International Centre in Vienna, Austria. Credit: Dean Calma / IAEA - Photo: 2023
The first session of the Preparatory Committee for the 2026 Review Conference of the Parties to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons (NPT), which met from 31 July–11 August 2023 at the Vienna International Centre in Vienna, Austria. Credit: Dean Calma / IAEA - Photo: 2023

2026年NPT再検討会議に向けた準備が続く

【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ】

核不拡散条約(NPT)再検討会議の準備サイクルは、同条約の無期限延長を決めた要素の一つとして、再検討・延長会議において決められたものだ。

プロセスは、再検討会議に先立つ3年間に毎年開かれる準備委員会会合で成り立っており、続く再検討会議における合意形成を促進することを目的として、組織的な手続き及び実質的な議論を進めることが想定されている。

残念ながらこれまでの再検討会議の結果は芳しいものではなかった。2005年、2015年、2022年には最終文書に合意できず、2000年と2010年に達成された実際の進展のほとんどは否定され、事実上忘れ去られている。

第11回再検討会議第1回準備委員会会合(2023年)が今年8月にウィーンで持たれたが、この重要な条約の権威と意義に疑問が付されるような残念な結果に終わった。

すでに2022年の再検討会議で見られていた対立する立場が、激しい応酬の中で再現された。核軍縮の進展具合に関する核兵器国と非核兵器国との間の見解の相違が依然として主要な対立点ではあるが、核兵器国自身を直接に巻き込んだ新たな緊張関係が前面に表れてきた。

現在の準備サイクルは、ロシアとウクライナの戦争がNATOの関与のもとで進行している最中に行われている。これは、1962年のキューバ・ミサイル紛争以来、最大の核兵器を保有する国同士の最も危険な危機であり、実際に核兵器が使用される危険性をはらんでいる。

現在の安全保障環境における別の重大な問題は、すべての核保有国による、より殺傷力の高い新兵器の開発、米ロ間の有意義な意思疎通の欠如、インド太平洋地域における安全保障枠組みの構築、戦闘における核兵器使用の可能性などである。

同時に、その他2つのカテゴリーの大量破壊兵器の規制と廃絶をめぐる既存の国際枠組みも困難に直面している。生物兵器禁止条約の最近の再検討会議は最終文書の実質的部分を採択できずに終わった。同時に、この5月に終わった化学兵器禁止条約第5回再検討会議も同様に残念な結果に終わった。

最終的に、国連安全保障理事会が、国際の平和と安全の維持に向けた主たる責任を持つ国際機関としての役割を果たす上できわめて重要になる。

核兵器拡散への懸念

核兵器拡散の懸念は、1945年に核爆発装置の爆発実験に初成功した78年前に始まっている。6か月後、国連総会は、原子兵器とその他すべての大量破壊兵器の廃絶に向けた提案を行う委員会を創設した。しかし、委員会は目標を達成しないまま1948年に解散された。生物兵器と化学兵器は国際法で禁止されているが、核兵器の脅威は依然として人類を悩ませている。

1965年、総会決議2028(XX)は、合意された5点の主要原則に則って、核兵器の拡散を予防する条約を交渉するよう「18カ国軍縮委員会」(ENDC)に呼びかけた。そのうち最初の2つの原則は、条約は「核兵器国や非核兵器国が、どのような形態であっても、核兵器を直接あるいは間接に拡散することを許すような抜け穴があってはならないこと」、次に、条約は核兵器国と非核兵器国との間で相互に合意された権利義務のバランスを保っていなければならない、というものだった。

1965年から68年にかけてENDCの条約草案の議論は妥結しなかったが、国連総会が1968年にNPTを採択し、同条約は核不拡散・軍縮体制の礎石とみなされている。その中心的な合意点は、核軍縮に向けた早期かつ効果的な措置を採ることと引き換えに、核兵器を持たない国々が核の取得を放棄するという形式だった。NPTはまた、条約第1条・第2条にしたがって、すべての加盟国による核エネルギーの平和的な開発・研究・生産・使用の不可侵の権利を謳っている。

これまでに開催された10回の再検討会議を悩ませてきた不和と意見の不一致の多くは、条約を最終的に採択した当事国の多くが、それぞれ別個の、かつ慎重にバランスが取られた義務に文面上も精神の上でも誠実に従っていない、という認識から生じている。時が経つにつれ、NPTは実際、権利と義務のバランスが大きく崩れ、締約国を2つのはっきりと分かれたグループに分断してきてしまった。

たとえば、非核兵器国の条約履行状況を検証する詳細かつ強制的な手続きが定められているのに対して、核兵器国には同様の条項が存在しない。条約上の核軍縮義務を果たそうとすらしない核兵器国側の政治的意思の欠如は、NPT再検討プロセスが直面している困難の主な原因だとみなされてきた。核兵器国は核軍縮義務そのものは否定していないが、自国の核兵器は安全確保のために肝要なものであり、現在の安全保障環境は、核兵器を最終的にゼロに導くような法的拘束力があり時限を定めた措置の採択を許すものではないと主張している。

他方、圧倒的大多数の国々は、核軍縮は核兵器国やその市民も含めた国際社会の安全を全体として向上させ、核兵器に付随した人間と環境に与えられるリスクは、核兵器が持っているとされるメリットを上回るものだと考えている。

NPT発効から53年

条約発効から53年、NPTははたして核兵器廃絶という目標を前進させたのだろうかという疑問は消えない。核兵器の数自体は冷戦最盛期の7万発から劇的に減少したが、今日の核兵器は、数の上でも、あるいはその秘匿性や破壊力の上でも急速に拡散している。核兵器使用の影響が及ぶ範囲は交戦当事者に限られないから、人類全体を脅威に晒している。地球上の人間の生命が核交戦によって絶滅しかねない。

NPT再検討会議準備委員会会合の最初の2回の任務は、条約の原則及び目的、それに、条約の完全履行及び普遍性の促進を念頭に置いた特定の課題について検討するものであり、第3回会合の目的は、前2回の会合の結果を考慮に入れて、再検討会議そのものに対する全会一致の勧告案を形成することにある。

2022年の第10回再検討会議は、条約再検討プロセスのさらなる強化に関する作業部会を設置した。部会は第1回準備委員会会合に向けて会合を持ったが、報告書に合意することができなった。同様に、第1回準備会合そのものも、実質的な全会一致報告書を採択できずに終了した。

NPT再検討会議の準備段階はこれまでも常に対立含みではあったが、近年、さまざまな国やグループがとる立場は、以前と比べて著しく柔軟性を欠いているように感じる。

2010年再検討会議で合意された行動計画の「行動20」「行動21」の下で核兵器国が認めた公約を効果的かつ検証可能にするという目標をもって、上述の作業部会の議長は、自らの権限において、準備委員会に向けた26の勧告を含む作業文書案を提示した。核軍縮に向けた行動に関する締約国の各国報告の透明化などが勧告として盛り込まれている。

批判的検討

このような報告書を批判的に検討するとともに、核兵器の近代化計画に関する説明責任を向上させるための標準モデルの採用が提案された。この標準モデルには、核弾頭の数、種類、状態(配備されているか、配備されていないか)、偶発的または非自発的な使用のリスクを低減するために採用された措置、安全保障政策とドクトリンにおける核兵器の役割、兵器システムの運用上の警戒を低減するために採用された措置、解体された兵器の数と種類、そして最後に兵器目的で利用可能な核分裂性物質の量が含まれている。

最終的に、準備委員会会合の閉幕にあたって、議長がその責任において「事実概要案」を提示した。しかし、それを作業文書に含めることにすら反対する意見が出て、議長はそれを単なる「勧告」に格下げせざるを得なかった。今回手続き的議論にあたって建設的態度を欠いていたことは、過去の準備委員会会合の悲惨な状況を考えても、異例のことだった。

核抑止が人間に与える影響やリスクの問題が初めて取り上げられたことは銘記すべきだ。

核共有がNPT第1条と矛盾しないかについても、ロシアがベラルーシに核配備したことやNATOが一部諸国に核兵器を配備していることを念頭に取り上げる一部締約国があった。

また、人間や環境に危険があるとして、原子力発電を段階的に廃止することに言及する国もあった。

2024年と25年にはさらなる準備委員会会合があり、2026年が第11回再検討会議である。終わったばかりの今回の準備委員会会合で唯一よかった点は、条約の目標に関して―その相対的な意味合いについては異論があるにしても―すべての締約国がコミットし続ける意思を示したことだ。再検討会議が2回連続で残念な結果に終わったことで、各締約国は、いつまでも対立しているのではなく、条約の強化につながる意義ある意見交換が可能になるように現在の再検討サイクルを継続させるべく、自らの態度や立場を見直すだろう。

大量破壊兵器に関する現在の国際協定の構造が、下手をすると意義を失い、あるいは時代遅れになってしまう真のリスクがあるからだ。

NPTは、その履行に関する欠陥が指摘され様々な見解があるにも関わらず、国際社会の圧倒的多数の支持を依然として受けており、核軍拡競争の停止と核軍縮という目標に締約国を法的に縛り続ける唯一の取り決めであり続けている。来たる再検討会議に向けた準備段階での現在の混乱は、NPTが今後も意義を持ち続ける上で重大な悪影響を及ぼす。NPTの権威と意義をこれ以上損なわないようにすることが急務だ。(09.07.2023) INPS Japan/ IDN-InDepthNews

※著者は国連軍縮局元上級代表で、現在は「科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議」議長。