A view of the 2nd meeting States Parties to the TPMW. Photo credit: ICAN | Darren Ornitz. - Photo: 2023
A view of the 2nd meeting States Parties to the TPMW. Photo credit: ICAN | Darren Ornitz. - Photo: 2023

|核抑止|人類を危険にさらす証明されていない賭け

【国連IDN=タリフ・ディーン】

核攻撃から自らを守るということを口実にして核保有することは正当化できるだろうか?

この議論は「核抑止」概念を下敷きにしている。核兵器は核攻撃を抑止するためのものである――広く問題視されているこの理論はたちまち次のような疑問を惹起する。すなわち、もしウクライナが核保有国だったらロシアはウクライナを攻撃しただろうか?

アフガニスタンやイラクへ侵略、リビアの指導者ムアンマル・アル・カダフィの失脚は、おそらくひとつの事実によって促進されたのだろう。それは、いずれの国も核兵器を持っていなかったか、(リビアのように)核兵器開発を断念していたことである。

北朝鮮のある外交官は、米国や西側諸国による侵略はもしこれらの国々が核武装していれば起こらなかったと指摘しながら、「だからこそ、われわれは核兵器をあきらめてはならないのだ。」と語ったという。

しかし、2017年にノーベル平和賞を受賞した、世界100カ国以上の非政府組織の連合体である「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)は「抑止は証明されていない賭け(ギャンブル)に過ぎない。それによって人類の将来をリスクにさらす理論であり、核兵器を使用すると暗に示唆することが前提になっている。このために世界が核戦争に近づいたことが何度もあった。」と述べている。

ICANによれば、1週間に及び12月1日に終了した核兵器禁止条約第2回締約国会合では、核保有国やその同盟国がこだわっている核抑止のドクトリンについて、人間の安全保障への脅威であり、核軍縮への妨げであるとの主張がなされたという。

核抑止ドクトリンへの非難

ICANのメリッサ・パーク事務局長は「核禁条約締約国がニューヨーク国連本部での締約国会議で核抑止ドクトリンを非難したことはきわめて重要な動きだ。」と語った。

核抑止がこの地球の生命の将来に対して呈する脅威について国連の条約が何らかの見解を示したことはない。抑止は容認できない。それは核戦争を行うとの威嚇に基づいたものであり、即時に数百万人を殺し、核の冬につながり、(最近の研究によって数十億人の死をもたらすとされる)大規模な飢餓につながる、とパーク事務局長は指摘した。

国際原子力機関(IAEA)で検証・安全保障政策局長をかつて務め、2017年の核兵器禁止条約策定時に検証などの問題で知見を提供したタリク・ラウフ氏は、「同条約の第2回締約国会議や、核兵器が人間に与える影響や条約の地位・運用に関するテーマ別議論があった点で注目すべきものだった。」と語った。

具体的には、被害者支援、環境修復、国際協力・支援、核不拡散条約との補完性、核軍縮の検証に関する科学諮問グループ(SAG)の報告などが議論された。

第2回締約国会議で採択された政治宣言は、概してレトリカルであり行動を強く促す内容ではあったが、具体的な内容には欠けているとラウフ氏は評した。

締約国は、2025年の第3回締約国会議に向け、会期中作業部会を設置し、被害者支援と環境修復のための国際信託基金、締約国の安全保障上の懸念に関する協議プロセスの様式を検討することに合意した。

国際信託基金については、「カナダやドイツ、ノルウェーのような条約反対国が、被害者支援に出資することでイメージアップを図りながら実際には決然と条約に反対しその価値を損なおうとする事態が考えられる。」とラウフ氏は指摘した。

科学諮問グループの設置

第1回締約国会議の重要な成果の一つは、科学諮問グループの設置であった。同グループは、核兵器の現状や開発状況、核兵器のリスク、核兵器の人道的影響、核軍縮及び関連する問題について、第2回締約国会議に有益な報告書を提出した。

公的な情報を利用して作成されたこの報告書は、米国科学者連盟や『原子力科学者紀要』が公表している核弾頭や関連する核物質の現状に関するデータや報告書を下敷きにして、核戦力の現状に関するデータをまとめたものだ、とラウフ氏は指摘した。

多国間の核軍縮交渉を支援するために科学諮問グループが設置されたのは、今回が2度目である。このような科学諮問グループが初めて設置されたのは、1976年、核実験禁止条約の検証および国際的な地震データ交換システムを構想するための科学専門家アドホック・グループが設置された時である。

ラウフ氏は、米国が主導する「核軍縮検証に関する国際パートナーシップ」(IPNDV)やQUADなどの既存の核軍縮検証の取り組みは、核燃料サイクル検証をめぐるIAEAによる既存の慣行や手順を模倣したものであると指摘した。

「しかし、核弾頭廃棄の検証に関する実現可能あるいは実践的な措置に関して国家間の合意はない。実際、米国は、核弾頭廃棄についていかなる国際的監視も認めていない。」とラウフ氏は指摘した。

「すなわち、実務的な理由によって、核保有国が核兵器や関連インフラを廃棄してから条約に加入するという核禁条約第4条1項で定められた方式は問題となっていない。しかし条約が2021年1月に発効してから、実際にそんなことが起きるだろうか。」とラウフ氏は問うた。

国連事務総長は第2回TPNW締約国会議の成功を歓迎

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、12月1日の声明で核兵器禁止条約第2回締約国会議が成功したことを歓迎した。

グテーレス事務総長は、「締約国が他の利害関係者と協力し、多国間核軍縮交渉の中で何が可能かを示し、世界的な軍縮・不拡散体制を強化するために行っている作業に勇気づけられている。」と指摘したうえで、「採択された政治宣言は核兵器なき世界という私たちの共通の目標に向けた貢献となる。」と歓迎した。

一方、会議では、100を超える非政府組織(NGO)を代表する約700人が、締約国との対話プロセスに参加した。締約国会議自体は、1週間に及ぶより広範な軍縮会議の場ともみなせるもので、パネル討論や文化的展示、コンサート、授賞式など65以上のサイドイベントがニューヨーク国連本部の内外で行われた。西部諸州法律財団のジャッキー・カバッソ事務局長は、「議長の事実概要まとめの合意にすら失敗した8月の核不拡散条約(NPT)再検討会議と比較して、核禁条約の会合は、核戦争の高まる脅威は容認できないものであり、その唯一の解決策は核兵器の完全廃絶しかないという一致した明確な認識を表明した。」と語った。

また、「核禁条約は核保有国の参加なしには実際に核軍縮を達成できないが、現在の締約国は、より広範でグローバルな文脈における有益な情報や分析を行い、拡散するためのプラットフォームとして精力的に活用していることは明らかだ。」と指摘した。

その例として、放射線が女性と女児の健康に及ぼす不釣り合いな影響を含むジェンダー影響に関する報告書や、核兵器、核兵器のリスク、核兵器の人道的影響、核軍縮、および関連問題に関する科学諮問グループの第1回報告書が挙げられる。

科学諮問グループはまた、核戦争の影響に関するあらたな国連の研究を呼びかけた。1980年代末以来、このような包括的な調査はなされていない。

「締約国会議が、『核兵器が人間に与える影響とリスクに関するあらたな科学的証拠に焦点を当て、それらを促進し、核抑止に本来的に伴うリスクや想定をこれらと並べることによって、核抑止を基盤とした安全保障パラダイムに挑戦する』ために、締約国や国際赤十字委員会、ICANやその他の利害関係者と協議し、その結果を2025年3月の第3回締約国会議に提示するよう義務づけたことはきわめて重要だ。」とカバッソ事務局長は語った。

核抑止は「ゴルディアスの結び目」

世界の人口の半数以上が、核兵器と「核抑止」ドクトリンに明確に依存した国家安全保障態勢の下で生きている。カバッソ事務局長は「私の見方では核抑止は核軍縮への道を閉ざしている『ゴルディアスの結び目』のようなものだ。」という。

ラテン語を起源とする「抑止」という言葉は、「恐れおののかせ、恐怖で満たす」ことを意味する。すなわち「威嚇する」ということだ。抑止概念は軍事・産業複合体全体と安全保障国家体制、それらに奉仕するエリートの下敷きになっている、とカバッソ事務局長は語った。

抑止は、その起源である冷戦期を超えて生き延びたイデオロギーであり、核兵器の永続的な保有と、(先行使用も含めた)その使用の威嚇を核保有国が正当化するために使われている。

NPTもTPNWも、核保有国が核の強制力(婉曲的に抑止力と呼ばれる)によって強要される「国家安全保障」という狭い利益よりも、普遍的な人間の安全保障を優先するグローバルなシステムを再構築しようとしない限り、軍縮を達成することはできないという厳しい現実がある。

ラウフ氏はさらに、「私の見方では、核弾頭解体検証の態様を追求しても『いたちごっこ』に終わるだろう。」と指摘したうえで、「私たちにとって不都合な真実は、100%の核弾頭解体検証など不可能だということだ。ミサイルや潜水艦、爆撃機に関しては可能だが、弾頭に関しては不可能なのが現実だ。」と語った。

これは科学者や大学にとっては興味深い知的挑戦かもしれないが、実践的に取れる選択肢ではない。

冷戦の最盛期、最大時の1986年で世界の配備核弾頭数は推定7万374発にも達していたことを考えてみるとよい。1945年以降、これまでに12万5000発以上の核兵器が製造されたとみられるのだ。

現在の世界の核弾頭数は約1万2500発である。かつての7万374発と現在の1万2500発との差である5万8000発に何が起こったのか? 12万5000発中の11万2500発には何が起こったのか? これらは結局、直接的な検証を受けることなく、各国が単独でひっそりと解体したのである。

ラウフは主張する。「核禁条約の締約国は『科学技術専門家国際パネル』を立ち上げて、核弾頭解体の関連側面に関する実践的問題について科学諮問グループに助言するようにしたらどうか。引退した兵器専門家、核兵器を扱っていた元査察官など、核兵器や検証問題の専門家を集めたらよい。」

他方、ICANによると、今回の締約国会議では、同条約が強さを増していることが示されたという。一部のオブザーバー国は近々条約に加入する意志を示したといい、条約に署名、批准あるいは加入した国々の数は国連加盟国の半数を上回ることになる。

インドネシアは、同国議会が条約批准を最近承認したことと発表し、ブラジル・ジブチ・赤道ギニア・モザンビーク・ネパールも近々批准すると発表している。

会議にはまた、オーストラリアやベルギー、ドイツ、ノルウェーなど、NATO諸国や米国の核に防衛上依存している国々も出席した。(12.03.2023) INPS Japan/ IDN-InDepthNews